不安や葛藤、生きづらさをアニメのキャラが癒して治す

世界初の心理療法、横浜市大で実証実験がスタート

2月 13, 2026
by Lucas Maltzman
不安や葛藤、生きづらさをアニメのキャラが癒して治す
この記事をシェアする
JStories ― 個人的な悩みは、対面で人に話すよりも、バーチャルなアニメキャラクターを相手にしたほうが打ち明けやすいのだろうか。横浜市立大学では、日々の不安や葛藤、生きづらさなど多くの人たちが抱える心の不調に対処する世界初の臨床試験として、アニメキャラクターを活用したオンラインカウンセリングである「アニメ療法」の有効性を検証している。
このアイデアを提唱したのはイタリア出身の精神科医で、作家でもあるパントー・フランチェスコさん。実験ではパントーさんが描いた原案をもとに、同大の研究拠点、Minds1020Lab(国の研究支援事業「COI-NEXT」に基づく学内研究拠点)と大日本印刷(DNP)が開発した6つのキャラクターを使用。参加者は心理士のアバターであるキャラクターと会話する形でカウンセリングを受ける。
『実践 アニメ療法 臨床で役立つ物語の処方箋』の著作もあるパントーさんは、JStoriesのインタビューに対し、アニメ療法は若年成人の不安を和らげる可能性があると語る。「現実の人間関係では、相手のわずかな表情や視線の変化から『今、拒絶されたのではないか』『評価されているのではないか』といった不安を抱きやすい。こうした反応は、不安傾向の強い人にとって大きな心理的負担となる」。
「アニメ療法」の提唱者であり研究者のパントー・フランチェスコさん 写真提供:株式会社キズキ
「アニメ療法」の提唱者であり研究者のパントー・フランチェスコさん 写真提供:株式会社キズキ
実験は昨年10月1日に始まり、今年6月30日まで行う。対象となるのは軽度の心理的な不調を抱える18〜29歳の人たち。アニメキャラクターは計6種類(男女3種類ずつ)が用意されており、参加者は自分の話し相手にしたいキャラクターを選ぶ。キャラクターはそれぞれが異なる性格や物語を持っており、心理士がボイスチェンジャーを用いてその声を演じ、リアルタイムで対話する。
日本では近年、若者の自殺率の上昇や不安の高まりが課題となっている。ユニセフ(国連児童基金)の子どもの幸福度ランキングでは、日本は身体的健康で1位に評価されている一方、精神的幸福度では36か国中32位にとどまっている。「体調や気分の不調を感じていても、医療機関に相談する若者はごく少ないのが現状だ。アニメ療法が新たな選択肢の一つになればと考えている」と、研究成果を実際の現場に生かす取り組みを統括する横浜市立大学の石井美緒助教授は話す。
理論上は、参加者が自分の境遇により近い背景を持つキャラクターを選ぶことで、物語の世界に入り込みやすくなり、精神的に負担の大きい話題にも取り組みやすくなるとされている。さらに、オンラインでのセッションが進むにつれて、参加者はキャラクターの背景について、より深く知っていくことになる。
イタリア生まれのパントーさんは、心理学の道を志し、日本に移り住んだ。幼少期には、「魔法騎士レイアース」や「美少女戦士セーラームーン」、「ミラクル☆ガールズ」といったアニメ作品が、いじめや心の不調を乗り越える支えになったという。「アニメやゲームに対して否定的な反応を示す人も少なくないが、私はアニメを通じて自分自身を客観的に見つめ、弱さを受け入れることができた」と語る。
アニメキャラクターとの対話画面のイメージ 写真提供:大日本印刷(DNP)
アニメキャラクターとの対話画面のイメージ 写真提供:大日本印刷(DNP)
アニメは日本の文化と結び付けられがちだが、その考え方が他の国や地域で応用できないわけではないと、パントーさんは説明する。「物語への没入、キャラクターとの関係性、自己投影を通じて感情を整理することといった心理的メカニズムは、文化の違いを超えて普遍的なものだ。海外でも、アニメやゲーム、ヤングアダルト小説、ファンタジー作品などを通して、キャラクターに強い共感を抱く若者は増えている」。
バーチャルセラピーそのものはこれまでも研究されてきたが、「この研究の独自性は、キャラクターを単なる外的なアバターとして扱うのではなく、物語性と心理的な奥行きを備えた“人格”として設計している点にある」とパントーさんは語る。
パントーさんは、「カウンセラーなど専門職の人々は職業倫理の制約から、自身の感情や経験を打ち明けにくい場合が多く、そのため相談者側にとって関係性が一方通行に感じられることがある」と指摘する。その上で、「アニメキャラクターは心理的なセーフゾーンとなり、従来の対面型支援では踏み込みにくかった心の扉を開くきっかけになり得る」と述べる。
今年度の実証実験の結果はまだ公表されていないが、各セッションの前後で、抑うつの程度や全体的な満足度といった指標が測定されている。実証は2026年6月に終了する予定で、石井さんとパントーさんは、既存のアニメやゲームのキャラクターとの連携も視野に入れながら、アニメ療法をより広い規模で実装していくことに期待を寄せている。
翻訳:藤川華子 | JStories
編集:北松克朗 | JStories
トップ写真:大日本印刷(DNP)提供
この記事に関するお問い合わせは、jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。

***

本記事の英語版は、こちらからご覧になれます。
コメント
この記事にコメントはありません。
投稿する

この記事をシェアする
人気記事