競争が激しく、マージンの少ない業界でイノベーションを推進させる方法とは?

From Disrupting Japan

6月 7, 2024
BY DISRUPTING JAPAN/TIM ROMERO
競争が激しく、マージンの少ない業界でイノベーションを推進させる方法とは?
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In partnership with Disrupting JAPAN (日本語版)

J-STORIESでは、革新的な取り組みを行う日本のスタートアップを海外に紹介している人気ポッドキャスト番組【Disrupting JAPAN】とコンテンツ提携を開始し、最新のエピソードや過去の優れたエピソードの翻訳ダイジェスト版を紹介していきます。本編(英語版ポッドキャスト)は、こちらで聴取可能です。
Disrupting JAPAN:Disrupting JAPANは、Google for Startups Japanの代表で東京を拠点に活動するイノベーター、作家、起業家であるティム・ロメロ氏が運営するポッドキャスト番組(英語)。ティム氏が数年後には有名ブランドになるポテンシャルがあると見出したイノベーティブな日本のスタートアップ企業をピックアップして、世界に紹介している。
Disrupting JAPAN:Disrupting JAPANは、Google for Startups Japanの代表で東京を拠点に活動するイノベーター、作家、起業家であるティム・ロメロ氏が運営するポッドキャスト番組(英語)。ティム氏が数年後には有名ブランドになるポテンシャルがあると見出したイノベーティブな日本のスタートアップ企業をピックアップして、世界に紹介している。
ティム・ロメロ氏:Google for Startups Japan代表。東京を拠点に活動するイノベーターであり、作家であり、起業家でもあるなど多彩な肩書きを持つ。東京電力など日本の大企業と協力して、新しいテクノロジーを使った新しいビジネスを生み出したり、ニューヨーク大学の東京キャンパスで企業のイノベーションについて講義を行ったり、雑誌などへの寄稿を行う中で、日本のスタートアップと世界の架け橋になるべくポッドキャスト番組「Disrupting JAPAN」を立ち上げた。
ティム・ロメロ氏:Google for Startups Japan代表。東京を拠点に活動するイノベーターであり、作家であり、起業家でもあるなど多彩な肩書きを持つ。東京電力など日本の大企業と協力して、新しいテクノロジーを使った新しいビジネスを生み出したり、ニューヨーク大学の東京キャンパスで企業のイノベーションについて講義を行ったり、雑誌などへの寄稿を行う中で、日本のスタートアップと世界の架け橋になるべくポッドキャスト番組「Disrupting JAPAN」を立ち上げた。

イントロダクション

革新的なイノベーションが起きた時、多くの業界においては、多くの抵抗がありつつも、抗いきれない大きな力に無理やりひきづられていく傾向があります。
儲け率が低くて、利益が少ない場合、効率の向上や長期的な節約を約束されていたとしても、企業のリーダー達は、イノベーションの為に一銭も使いたくないと思うことでしょう。そのような環境下で、イノベーションを進める為には、時に小さな労力で大きな成果が得られる「レバレッジ」を使うことが必要になります。
本日は、エレファンテックの創業者兼CEOの清水信哉さんにお話を伺います。彼は、グローバルテクノロジーのサプライチェーンをより環境に優しいものにするという使命を遂行する中で、どのようにそのレバレッジを見つけたかを説明していただきます。
エレファンテックや他のスタートアップが、世界がネットゼロ目標を達成する為にどのような支援をしているのか、製造業スタートアップのスケーリング戦略、そして世界に貢献しながらお金を生み出す方法について探っていきましょう。

本編

日本で最も成功している起業家たちからのストレートな話をお届けする「Disrupting Japan」のティム・ロメロです。
電子機器の部品として、回路基板はどこにでもあるものですが、私たちはその回路基板についてあまり考えることは多くはありません。個人的に回路基板に直接関わった経験は数年前にありますが、その際には困難を伴いました。
しかし、プリント基板(PCB)は900億ドル規模のグローバル産業です。高度に標準化され、厳密に管理されており、驚くほど環境に悪影響を与えています。
清水さんとエレファンテックのチームはそれを変えています。彼らはプリント基盤の製造を環境に優しく、かつ低コストで再設計する技術を開発しただけでなく、最初の工場を建設し、現在は世界最大級のメーカーに販売しています。
エレファンテックは、スタートアップが成功しながら世界にプラスの貢献をする方法の素晴らしい例です。また、清水さんは、新しいスタートアップとして大企業に販売する方法、資本集約的な成長のための資金調達方法、低マージンの激しい競争業界に新しいイノベーションを導入する方法について、実践的なアドバイスを提供してくれます。10年前に動作する電気回路を描くペンを作るための小さなKickstarterのプロジェクトから始まり、今日では世界最大級のメーカーにPCB技術を販売し、明日は回路基板の製造方法を根本的に変えるかもしれないという、彼らの驚くべき旅の物語です。
しかし、清水さんがその物語を私よりもはるかに上手に語ってくれますので、インタビューに移りましょう。
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環境に優しい持続可能な製造プロセスで電子回路の製造方法を完全に変革

ティム: エレファンテックのCEO兼創業者の清水信哉さんにお越しいただいています。エレファンテックはインクジェット印刷を用いて、環境に優しい持続可能な製造プロセスでプリント基板を大量生産する世界初の企業です。
清水: はい。そうですね。今日は本当にここに来れて嬉しいです。
ティム: 私の方で、大まかな説明をしましたが、きっと清水さんの方がもっと分かりやすく説明できると思います。エレファンテックは何をしている会社なのか教えてください。
清水: エレファンテックは電子回路の製造方法を完全に変革しようとしています。環境に優しく、コスト効率も高い方法です。そして私たちの目標は、10年から15年後には、世界中のほとんどの回路基板、つまりiPhoneやノートパソコンなどの電子回路が私たちの技術で作られるようにすることです。
ティム: 清水さんの行った革新の核心部分に関わると思いますが、今日のほとんどの回路基板は多くの資材ロスが発生するサブトラクティブ法で製造されていますね。
清水: そうですね。
ティム: 一方、清水さんの会社はアディティブ法を採用しています。
清水: その通りです。私たちは完全に異なる製造方法をとっています。従来の方法はサブトラクティブ法で、私たちの方法は純粋なアディティブ法です。それが最大の違いです。従来の方法は、銅線をプラスチック基板に配置し、必要な部分を残して不要な部分を取り除くという方法です。その過程で、銅の70〜80%が無駄になり、資材効率もコスト面でも良くありません。私たちの方法は全く異なり、最初にインクジェット印刷技術で銅を印刷し、その後のめっき技術で銅の厚みを増します。めっきによって銅の結晶が成長するので、純粋な加法のプロセスです。この技術は本質的に良いものです。

従来とは異なる製造方法で、銅の使用70%、水の使用を95%、CO2排出量を75%削減

ティム: なるほど。廃棄物が少なくなりますね。銅の使用量を70%削減し、水の使用量を95%削減、CO2排出量を75%削減するということですね。そうなりますと、御社の方法で回路基板を生産すれば、CO2排出にどれだけ寄与しているかに驚きます。
清水: 全くその通りです。おそらく誰もが思うよりも大きな影響を与えています。例えば、Appleは世界で最も大きな炭素排出企業の一つです。彼らは多くの電気製品を製造していますからね。彼らの総炭素排出量の10%は回路基板の製造から来ています。
ティム: それは彼らのサプライチェーンだけでなく、全体の炭素排出量ということですか?
清水: そうです。総炭素排出量です。
ティム: すごいですね。それは本当に大きな影響ですね。
清水: そうです。Appleは2030年までにネットゼロを目指していますので、その10%は重要です。
ティム: そうですね。続いてクライアントについて教えてください。誰がエレファンテックの技術を使用していて、彼らがそれを使用する動機は何なのでしょうか?
清水: 主な動機は脱炭素化です。公開されていないクライアントについては詳しく話せませんが、例えば、公開をされている企業としてはリットンのような会社があります。リットンは世界で最も有名な会社ではありませんが大きな会社で、世界のノートパソコンのキーボードの4分の1がリットンによって製造されています。昨年、同社との覚書に署名しましたが、リットンが私たちの基板を使用する動機はまさに脱炭素化です。リットンの顧客は通常、西洋諸国です。つまり、彼らの顧客は通常、台湾の企業ではなく、ヨーロッパや北米の企業です。そして、彼らは環境面でサプライヤーを選びます。
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日本の大学にある「世界を変える可能性のある技術」でクラウドファンディング

ティム: 消費者の圧力がサプライチェーンをどのように変えているのかを深掘りしたいですが、その前に清水さんご自身についてお話を聞かせてください。エレファンテックを2014年に設立しましたが…
清水: ええ、ずいぶん前ですね。
ティム: でも、それはAgIC株式会社として、クラウドファンディングサイトKickstarter上のキャンペーンから始まったんですよね。
清水: そうです。知っているんですね。
ティム: ずっとあなたたちのファンでした。
清水: ありがとうございます。
ティム: クールなマーカーがありましたよね。
清水: はい、そうです。クールな回路マーカー(エレファンテックの前身であるAgICが開発した電気を通す蛍光ペン)です。
ティム: それについて教えてください。
清水: 会社を始める前、私はマッキンゼーで経営コンサルタントとして働いていました。マッキンゼーで働いている間、特に大学から生まれる科学的で興味深いことを探していました。なぜなら、大学の技術は通常十分に活用されていないと感じていたからです。特に日本の大学には、世界を変える可能性のある技術がたくさんあると思っています。そして、この技術を発明した川原教授(現在は東京大学の教授)に出会いました。しかし、その回路マーカーは、最終的な目標には直接達していませんでした。
ティム: なぜKickstarterを選んだのですか?最初に見たとき、クールだなと思いましたが、この人たちはこれをどうするのかと思いました。最初から方向性が決まっていたのですか?
清水: いいえ。これは私の最初の会社で、設立当時私は25歳でした。正直言って、迷っていました。技術自体は本当に未熟で、今ほど洗練されていませんでした。教授の技術では、プラスチック基板に直接金属を印刷することはできませんでした。すべての回路基板は基本的にプラスチック基板です。最初は紙に銅を印刷することから始めました。それは興味深いですが、銅印刷の紙は産業用途には使用できません。

プリント基板の業界外から会社を設立。技術開発で特許を取得

ティム: 外から見ていると、手で持てるマーカーからインクジェットプリンター、そして現在の回路基板へと技術が進化しているのが見えましたが、これらは異なる技術でしたね。
清水: 正直に言うと、そうです。投資家は一連の繋がった技術だと言いますが、科学的にはこれらの技術は直接的には繋がっていないと言えます。
ティム: 知識や実験がそれを繋げているのでしょうか?
清水: そうです。最初の期間は現在の事業に直接関連していませんが、その過程で、多くの人々が少なくとも私が思っていた以上に新しい製造技術に興味を持っていることが分かりました。そして、本物のプリント基板には重要な市場があることを発見しました。正直言って、会社を設立する前はこの業界について何も知りませんでした。その初期の期間に研究を行いました。
ティム: つまり、業界外から来て、技術の深い知識を持っていなかったわけですが、各世代の進歩のために新しい技術をどのように開発したのですか?
清水: 実は、現在使用している特許の第一発明者は私です。私はちょっと変わった人間で、17歳のときに最初のCPUを設計しました。
ティム: それはすごいですね。
清水: 設計図を描いて独自のCPUを設計し、大学ではフォーミュラカーを作りました。ですから、研究やビジネスチャンスの調査ができます。
ティム: ビジネスのニーズと技術の間を行ったり来たりするのに多くの時間を費やさなければならなかったのでしょうか?
清水: はい、今でもそうです。
ティム: 今でも?
清水: そうです。でも楽しいですよ。
ティム: 楽しいですよね?
清水: そうです。正直言って、私は技術が好きです。科学が好きです。この会社で何らかの開発研究ができないとしたら、おそらく楽しみの70%を失うでしょう。

グローバルに認知されるために「象」にブランド変更。

ティム: 分かります。あなたの旅の中で、2017年にエレファンテックにブランド名を変更しましたね。なぜ変更をしたのですか?そして、なぜ象(エレファント)だったのですか?
清水: 第一の理由は、わずかな商標問題があったからです。第二の理由は、私たちは完全に回路マーカーから産業用回路基板へと移行していたため、会社をリブランド化したかったからです。そして、エレファンテックという名前はグローバルに認知されやすく、象のロゴも素晴らしいです。中国、タイ、インドなどのアジアの国々で働くとき、日本の会社名は覚えにくいことが多いです。
ティム: そうですね。特にユニークではありませんね。
清水: それに対して、象は本当にユニークです。どのアジアの国でも象を嫌う人はいません。
ティム: 確かに、象にはポジティブなイメージしかありませんね。
清水: そうです。私たちの市場は日本国内ではなく、主にグローバル、特にアジアの国々にあります。ですから、アジアの人々に覚えやすい会社名を考えたかったのです。

工場建設の為の資金を銀行融資で調達

ティム: なるほど。エレファンテックはこれまでに約8000万ドル以上の資金を調達しましたね?
清水: 8000万ドルです。
ティム: その多くは融資で調達しました。
清水: そうです。融資です。
ティム: これは多くの西洋の創業者たちが羨むことでしょう。どのようにしてスタートアップに銀行が融資してくれるようになったのですか?
清水: 正直言って、最大の追い風は政府の政策です。私たちが使っている負債の多くは政府が支援しているものです。政府は直接スタートアップに融資するのではなく、銀行に融資を保証しています。しかし、それだけでは決定的な要因ではありません。もう一つ重要なのは、資金の使い道が明確であることです。特に設備投資です。負債と株式の最大の違いは、資金の使い道に対する厳格さです。しかし、多くのスタートアップ、特にソフトウェアベースのスタートアップの場合、資金の使い道は多岐にわたり、予測が難しいです。しかし、私たちの場合、工場を建設するための資金が必要で、その使い道が明確です。それが一つの要因です。
ティム: つまり使用用途がプロジェクトファイナンス、(土地などの)有形資産、土地など、銀行が扱いやすいものに向かっているのですね。それは完全に理にかなっています。
清水: そうです。銀行が安心できることは非常に重要です。
ティム: 特に銀行にとっては。
清水: そうです。誰も安心できない領域に資金を投入しません。
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グリーントランスフォーメーションを回路基板市場で成功できた理由

ティム: 市場全体の話題について戻りたいのですが、私もGX(グリーントランスフォーメーション)と脱炭素化に深く関わっていて、それは私のJERAベンチャーズでの大きな役割の一部ですが、挑戦的です。多くの創業者がこの市場に製品を持ち込むのに苦労しています。
清水: そうですね。
ティム: あなたたちはそれを成功させていますが、私が予測しなかった市場で成功しています。プリント基板は900億ドルのグローバル市場ですが、非常に低いマージンと厳しい運営条件に縛られています。
先ほど述べたように、Appleのような消費者向け企業には、カーボンニュートラルで、より環境に優しくなければいけないという消費者からのプレッシャーがあります。それが主な理由ですか?他の要因もありますか?
清水: それは良い質問です。いくつかの不一致があります。回路基板の製造は通常、非常に低いマージンで行われています。そのため、彼らには製造技術を変える動機や能力がありませんし、グリーントランスフォーメーションを行う力もありません。しかし、回路基板の製造業者は何かをしなければなりません。一方で、Apple、HP、Logitechなどのグローバルブランドオーナーは、回路基板の脱炭素化に非常に高い動機を持っています。回路基板は高炭素、低価格の製品です。
ティム: つまり、彼らの視点から見ると、回路基板の価格が10%上がっても、炭素排出量に大きな影響を与える一方で、価格にはほとんど影響を与えないということですか?
清水: そうです。先ほども言いましたが、Appleの炭素排出量の10%は回路基板ですが、コスト面ではおそらく1%未満です。回路基板の製造は低マージンですが、コスト効率の面では、炭素排出量に対するコストは非常に高いです。したがって、ブランドオーナーはGX化に高い動機を持っています。

将来的にコスト競争力をもてるか

ティム: それは理にかなっていますね。もう一つの点は、サブトラクティブ法は非常に複雑なプロセスですが、清水さんの導入されたアディティブ法は非常にシンプルです。
清水: とてもシンプルです。
ティム: 理論的には、それが洗練されるとコスト競争力を持つはずです。これは近い将来にそうなるものでしょうか、それともサブトラクティブ法は本質的に高価なものですか?
清水: 本質的に高価な要素はありません。ただし、二つの要素があります。一つはボリュームです。もう一つは小さな改良の積み重ねです。サブトラクティブ法はほぼ100年の歴史がありますので、すべての小さな改良が行われ、非常に最適化されています。また使用される材料の量も非常に安価です。一つの例として、現在のサブトラクティブ法では銅張りプラスチックフィルムが使用されていますが、その価格はプラスチックフィルム自体とほぼ同じです。それは驚きなことです。
ティム: なぜですか?
清水: プラスチックフィルムの製造業者はプラスチック材料から銅張りプラスチックフィルムまでの一連のラインを持っているからです。それを何百万トンもの量で製造しているので、価格はプラスチックフィルム自体と同じくらい安いのです。
ティム: 銅は安くないのに。
清水: 特に最近は安くないです。

名古屋工場は最初で最後の自社所有工場

ティム: 数年前に名古屋に工場を設立しましたが、それは量産体制として最初の工場ですか?さらに日本で工場を建設する予定ですか、それとも台湾や他の製造拠点で工場を建設する予定ですか?
清水: 良い質問です。私たちの次のビジネスモデルは、世界最大のPCB製造業者になりたいわけではありません。むしろ技術提供者になりたいです。私たちはプリンターとインクを販売し、他のPCB製造業者が私たちの技術を使用してPCBを製造できるようにします。したがって、名古屋工場は最初で最後の自社所有工場になることを望んでいます。次の工場はおそらく台湾かベトナムになるでしょう。既にいくつかのPCB製造業者と話し合っており、プリンターとインクを販売するか、既存の製造業者と共同工場を設立する予定です。
ティム: 既存の工場やラインに後から据えつけることができますか?それとも最初からエレファンテックの技術で構築しなければならないものですか?
清水: 後から据え付けることができます。
ティム: 議論している共同プロジェクトは主に後から据えつけるものですか?
清水: そうです、主に後から据え付けるものです。PCB製造業は非常に低マージンで、利益率が低いため、既存の技術を悪いものとして、新しい技術に変更するというメリットがあまりないです。
ティム: 確かに。製造技術の変化が遅い業界では、最初に概念実証を行い、その後にスケールアップとライセンス提供を行う必要があります。

「核融合のような革新」で大手企業とのコラボレーションを実現

清水: この業界はその点でスタートアップにとって素晴らしいです。例えば、Appleや大手メーカーが私たちの技術を使用すると決定すると、すべてのPCB製造業者がそれに従わなければなりません。
ティム: 日本の企業は新しい技術に対して慎重であるというイメージがありますが、エレファンテックは三井や三菱、住友などとの成功したパートナーシップを持っています。これらのコラボレーションをどのように開始したのですか?
清水: 簡単に言うと、このビジネスは一般の人々には理解しづらいものですが、特定の業界では長く待ち望まれていたソリューションです。この業界で働いている人々にとって、この革新の価値はすぐに理解されます。これがPCB製造において、核融合のような革新であると言えます。誰もがこのアイデアを知っていますが、誰も大量生産できませんでした。最終的に、これがPCB製造における究極のソリューションであり、それを商業化することができるのです。
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10%や20%の人々から熱心に支持されることが重要

ティム: では、この技術は馴染みのあるものでしたが、アプローチに信頼を置いていたということですか?大企業とのパートナーシップを求める他の起業家へのアドバイスはありますか?
清水: アドバイスとしては、諦めないことです。例えば、ある企業と何度も異なる窓口や担当者と試み、最初は何度も「必要ない」と言われることが多いですが、最終的には担当者がこのアイデアを理解し、支持してくれることがあります。
ティム: それは組織内の特定の部署によって決まっていたのですか、それとも適切な担当者を見つけることができるのかによって決まっていたのですか?
清水: 担当者次第ですね。
ティム: その担当者が会社内の異なる機能を持っていることもありますね。とにかく諦めずに続けることが重要ですね。
清水: その通りです。スタートアップは必ずしも100%の人々に同意されるソリューションを作る必要はありません。90%や80%の人々から理解できなくても、10%や20%の人々から熱心に支持されることが重要です。
ティム: それは重要なポイントです。多くの人々がスタートアップに興味を持ち、熱心に取り組んでいますが、90%の人々は機会の可能性を理解していません。これは心に留めておくべきことです。

国際展開のボトルネックは生産能力

国際展開についても話しましょう。最近、30億円、約2000万ドルの資金調達を完了しましたね。それは先週のことですか?
清水: 先週です。
ティム: おめでとうございます。
清水: ありがとうございます。
ティム:それは素晴らしいですね。その一部はこの国際的な拡大を推進するためのものですね。国際的な取り組みの大部分は、技術を習得して工場を改修するためにPCボードメーカーを支援する供給側に重点を置くのでしょうか、それともApple、Samsung、HPなどの企業に教育する需要側に重点を置くのでしょうか?この国際展開をどのように実行していく予定ですか?
清水: 正直に言うと、現在のボトルネックは実際には生産能力です。既に多くの国際的なクライアントがおり、ほぼすべての大手電子機器メーカーと話し合っています。しかし、供給側にはまだ多くの改善の余地があります。現在の歩留まりや生産性、プリンターの安定性に問題があるので、それを改善する必要があります。
ティム: 多くの資金が現在の名古屋工場での生産拡大と精緻化に向けられるということですか?
清水: そうです。
ティム: あなたは、それが最後の工場になることを望んでいると述べましたね。
清水: そうですね。できればそうしたいです。
ティム: 台湾や他の海外の製造業者を導入する前に、その工場でどれくらいの生産能力がありますか?
清水: 実際、かなりの生産能力があります。例えば、年間数千万台のキーボード用回路基板を供給できます。かなりの量ですが、PCBの総市場と比べるともちろん非常に小さいです。しかし、ノートパソコンやその他の製品に供給するには十分です。ただし、スマートフォンには適していません。スマートフォンの市場規模は一桁大きく、通常、PCは年間数百万から1000万、2000万台ですが、Appleは年間数億台のスマートフォンを製造しています。ですから、名古屋工場からiPhoneに供給することはできませんが、車両やPC周辺機器、カメラなどの他の用途には供給できます。

量産の為の生産性とあらゆる回路基盤への適用が課題

ティム: 真にグローバルな規模に達するための主なボトルネックは何だと思いますか?スマートフォン市場に参入するためには、技術の洗練が必要ですか?生産パートナーシップの確立が必要ですか?それとも、Appleがサプライヤーにさらに圧力をかける必要がありますか?そのスケーリングの鍵は何ですか?
清水: 素晴らしい質問ですね。技術は間違いなく最大のボトルネックの一つです。正直に言うと、技術的には改善が必要な点が二つあります。一つは量産のための生産性です。そして、もう一つはPCBの種類の多様性です。私たちは最も単純なものを製造しています。単層の柔軟な回路を製造していますが、二層や多層の回路基板もあります。現在は柔軟な基板に印刷していますが、硬質の基板もあり、技術的にはあらゆる種類の回路基板に適用可能ですが、まずは最も単純なものから始めています。技術のラインアップを増やす必要があります。

PCB市場において脱炭素化は非常に重要な付加価値ポイント

ティム: 供給チェーンにおいて、より高価な製品で市場に参入することは常にリスクがあります。政府や消費者からの圧力が企業のネットゼロ目標達成のためにどれだけ重要ですか?生産が効率化されることで価格を下げることにどれだけ依存していますか?
清水: 前者の方が重要です。PCBは高炭素、低価格の製品なので、直感に反するかもしれませんが、PCB市場は非常にコスト競争が激しい市場です。しかし、特にスタートアップにとって、コストは通常、決定的な要因ではありません。脱炭素化は非常に重要な独自の付加価値ポイントです。現時点では、PCB製造業者だけでなく、ブランドオーナーも製品の脱炭素化に本気で取り組んでいるわけではありません。
ティム: 彼らは強制されてやっているだけで、世論はそういうことに変わりうるということですね。
清水: 私のポイントは、炭素フットプリントの削減は単なる付加価値ポイントの一つであり、グリーンで高価な製品ではなく、環境に優しく同時にコスト効果のある製品を供給したいということです。しかし、既存の製品と比べて20〜30%コストを削減できたとしても、環境価値が追加されていなければ、大企業はおそらく私たちの製品を購入しないでしょう。

欧州企業が脱炭素化に真剣というのは真実ではない

ティム: 多くのグリーントランスフォーメーションスタートアップや環境に優しいスタートアップが直面しているコアチャレンジだと思います。環境問題を解決しようとしているスタートアップの創業者に対するアドバイスはありますか?多くのスタートアップが失敗する原因を避けるためのアドバイスです。
清水: 実際にあります。素晴らしい質問ですし、同時に私が毎日自問している質問でもあります。まず、環境問題解決の動機は一貫していません。欧州企業が脱炭素化に真剣に取り組んでいるというのは私の意見では真実ではありません。地域や業界によって異なるので、脱炭素化に焦点を当てたパートナーを見つける必要があります。それは新しいCEOのイニシアティブや新しいサプライチェーンマネージャーのイニシアティブであるかもしれませんし、機会を見つける必要があります。
ティム: それは企業スタートアップのコラボレーションについて話していたことに関連していますね。
清水: そうです。彼らは決して諦めません。

政府は、脱炭素化に向けて情報の開示を

ティム: 政府はこれに対してどのような役割を果たすべきだと思いますか?例えば、EUの新しい炭素輸入税やカリフォルニア州が大企業にサプライチェーンの開示を要求するなど。政府がこの変革を支援するためにどのような役割を果たすべきだと思いますか?
清水: 素晴らしい質問です。私は常に政府、日本政府に提案しています。日本政府と密接に協力しています。企業が脱炭素化のために最善を尽くす方法は、需要を創出することです。スタートアップから購入することです。具体的な製品を購入しなくても、少なくとも需要を示す必要があります。ビジネスのこの部分の炭素フットプリントを削減するソリューションが必要だと宣言することが非常に重要です。日本政府やいくつかの機関に提案しているのは、民主主義国家であるため、政府は企業に特定のものを購入するよう強制することはできません。したがって、私が常に提案しているのは開示です。企業は少なくとも脱炭素化の動機やニーズを開示する必要があります。具体的な製品を購入する必要はありませんが、少なくとも何が必要なのか、ネットゼロ目標のために何が必要なのかを開示する必要があります。
ティム: それは良い一歩ですね。消費者からの圧力がかけやすくなります。それにより…
清水: それにより、VCがスタートアップに投資しやすくなります。
ティム: それだけで十分だと思いますか?それとも立法措置が必要だと思いますか?
清水: 立法措置が必要だと思います。しかし、日本市場の場合、日本企業には開示が通常大きな影響を与えます。それは文化的な要素かもしれませんが、開示には強力な影響があります。
ティム: そうですね。非常に強力な影響があります。
清水: その通りです。
ティム: 日本では数年間、すべての企業とCEOがコミットメントについて話し、それを開示しなければならないというパターンがあります。そして、それは恥の文化のようなもので、「あなたはこれをやると言ったでしょう」という感じです。
清水: そうです。正確な計画やニーズを開示します。それは理にかなっていますよね?
ティム: そうですね。本当にそうです。そして、それは多くの業界で機能します。
清水: そうです。間違いありません。

日本にイーロン・マスクを生み出したい

エレファンテックCEOの清水信哉氏      Disrupting Japan 提供
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ティム: 清水さん、最後にお聞きしたいのは、私が「魔法の杖の質問」と呼んでいるものです。もし私があなたに魔法の杖を渡し、日本について何か一つだけ変えることができるとしたら、教育制度でも、人々のリスクに対する考え方でも、企業が新しい技術を試す意欲でも、日本のスタートアップやイノベーションをより良くするために何を変えますか?
清水: 私はイーロン・マスクを日本に生み出したいです。日本のスタートアップエコシステムに必要な最大の要素は、大成功したケースです。
ティム: 日本には三木谷さんや孫さん、ホリエモンのような成功した起業家がいますが。
清水: ホリエモンは成功しましたか?
ティム: 彼は成功していましたね。
清水: でも、東京大学の大学生と話すと、彼らは成功のロールモデルを想像できません。孫さんは遠すぎて想像しづらいです。
ティム: つまり、ロールモデルが必要だということですね。
清水: そうです。彼らは世界を変えていますが、イーロン・マスクほどではありません。例えばモデルナのように。モデルナの技術は日本で起こり得たイノベーションです。
ティム: そうですね。起こり得たけれど起こらなかった。しかし、魔法の杖でモデルナを日本で再生させることができる。
清水: しかし、世界を本当に変える単一の成功事例が必要です。それは国内市場ではなく、世界的に競争力のあるものです。三木谷さんは素晴らしいですが、彼は国内市場に焦点を当てています。
ティム: そうですね。世界を本当に変えた日本の起業家としては、ソニーの盛田さんのような人を生み出す時代に戻る必要があると思います。
清水: そうですね。でも、それは歴史ですね。
ティム: それは80年前のことです。新しい人が必要です。刷新する必要があります。
清水: そうですね。学生たちは盛田さんを知っていますが、それは全てソニーやトヨタのような古い会社です。
ティム: それは100年前のことです。刷新する必要があります。なぜそれが起こっていないのですか?なぜもっと成功事例が見られないのですか?歴史的には成功した日本の起業家がいるのに。
清水: 一つの意見としては、日本には大きな市場があるということです。ソニーやトヨタが成功したとき、日本は現在ほど大きくありませんでした。現在の日本市場は非常に魅力的で、言語の壁で保護されており、十分な市場があります。
ティム: 日本国内だけで多くの利益を上げることができますね。若い世代の大学生の間でその態度は変わりつつありますか?
清水: そうですね、3〜4年前には変わって、東京大学の大学生たちはイーロン・マスクのような世界を変える起業家になる機会を本当に探していました。しかし、最近の日本経済は好調ですよね?そのため、彼らは国内市場のビジネスに傾倒し始めました。
ティム: 厳しい時代が偉大な企業を作りますね。
清水: その通りです。また、ロールモデルが重要なのは、東京大学には多くの小さな成功事例があります。小さな会社を始めて数百万ドルを手にする起業家が増えています。
ティム: それは本物の金額ですね。
清水: そうです。5〜6年前から起業家になることが現実的になり、小さな出口の成功例が増えています。
ティム: 小さな成功例がありますが、大きな夢を持つロールモデルが必要ですね。
清水: そうです。そのために私はこのビジネスを始めました。私はその一人になりたかったのです。
ティム: あなたはその道を進んでいるようです。
清水: そうです。この技術は本当に魅力的です。そのために10年間取り組んできました。これは世界を変える可能性のある技術です。
ティム: 素晴らしい。信哉さん、今日はありがとうございました。
清水: ありがとうございました。

まとめ

エレファンテックの創業秘話で私が最も好きなことの一つは、昔ながらのエンジニアリングの要点を含んでいることです。
今日、創業者たちは自社の商品が適切な形で市場に受け入れられていない場合、新たな問題を見つけてその製品で解決するように業務転換が勧められます。これは通常、良いアドバイスです。しかし、エレファンテックは古典的な方法を取り、解決したい問題に焦点を当て続け、その問題を解決するために必要な技術を変え続けて来ました。
これはスタートアップにとってリスクが高いため、あまり見かけませんが、それだけに新鮮です。
また、エレファンテックの負債の利用方法も興味深いです。この特定のスタートアップがそれをどのように活用したかだけでなく、日本のスタートアップエコシステム全体の将来について、何を教えてくれるかという点でも興味深いです。
多くの賢明な創業者は、株式ではなく負債を発行したいと考えます。しかし、多くの賢明な貸主はそのようなリスキーな融資を行いません。しかし、日本では、一部の銀行主導のCVCが株式と負債のファイナンスを組み合わせた取引を提供し始めています。これは、創業者にとって希薄化が少なく、銀行の貸借対照表に新しい貸し出しを追加することができます。
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しかし、政府の補助金があっても、それは良い貸し出しでなければなりませんし、担保付きの貸し出しである必要があります。つまり、これらのCVCはハードアセットを持つスタートアップに投資したいと考えています。そのため、米国のベンチャー業界が、資本集約的なスタートアップに対して強いバイアスを持っている一方で、日本はこうしたスタートアップを支援するエコシステムを整えるかもしれません。
この資金調達のプレッシャーは、日本の革新的なハードウェアおよびエンジニアリングに特化したスタートアップが、他の地域ではできない方法で繁栄するための強力な追い風を生むかもしれません。
そして最後に、清水さんとの会話は、ロールモデルの重要性についての私自身の立場を再考させました。私は常に、学生にとって最も有用でインスピレーションを与えるロールモデルは、学生の少し先を行く創業者だと言ってきました。これは、学生がより共感しやすい人々であり、自分たちに近い存在だからです。
しかし、清水さんが指摘したように、それは確かに正しいですが、それだけでは十分ではありません。日本には、次世代に何が本当に可能かを示し、大きな夢を持ち、星を目指し、そしてもしかしたら世界をより良く変えるかもしれない、非常に成功したグローバルな創業者が必要です。
[このコンテンツは、東京を拠点とするスタートアップポッドキャストDisrupting Japanとのパートナーシップにより提供されています。 ポッドキャストはDisrupting Japanのウェブサイトをご覧ください]

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