JStories-世界最大級のビジネス・ピッチコンテスト「スタートアップワールドカップ2025」(ペガサス・テック・ベンチャーズ主催)の九州予選が熊本市の共催で5月23日(金)、同市中央区の熊本城ホールで開かれた。全国からの応募企業は100社を超え、厳正な書類審査で選ばれたファイナリスト10社が、10月に米で行われる世界大会での決勝戦進出を目指して斬新な事業アイデアを競った。
その中から見事、世界大会への切符を手にしたのは、熊本市に本社がある医療用品製造販売「トイメディカル」(同市南区、竹下英徳代表取締役社長)。食事に含まれるナトリウムを海藻由来のアルギン酸塩に置換し、アルギン酸ナトリウムとして塩分吸収を抑える塩分オフセット技術を活用。味を変えずに塩分吸収を抑制する技術を生み出した。
そのほか、イベントでは、等身大の大型ディスプレイと低遅延双方向音響システムを組み合わせてまるで同じ空間にいるような自然な対話ができるテレプレゼンスシステム、AR上で撮影した写真やキャラクターとの合成写真を複合機で出力できる機能を搭載したプログラミング不要なプラットホームなど、様々な興味深い技術や製品が約2000人の出席者(オンラインと会場参加者の合計)に披露された。
ファイナリストのピッチに先立ち、熊本市の大西一史市長が「熊本からスタートアップエコシステムを育て、世界に羽ばたいていく皆さんを応援していきたい」とあいさつした。


世の中にない価値を作り出す。やるなら10代、20代で

今回のイベントでは、大西熊本市長と起業家・堀江貴文氏とのスペシャル対談も実現した。「もともと、ゼロイチで物を作るのが好き。世の中にない価値を作り出すのが楽しい」と語る堀江氏は、「スタートアップをやるなら、10代、20代でやるのが最適。僕も戻れるものなら戻りたい」と、会場を笑いで包みながらも若い世代へ向けたメッセージで会場を盛り上げた。
また、在福岡米国総領事館の政治経済担当領事ロブ・フォース(Rob Force)氏は登壇者に向け「起業家としての旅はただ困難に立ち向かうだけのものではない。世の中に変化を起こし続けるチャンスだ。全ての挫折は学びとしての経験であり、成功は皆さんのビジョンと忍耐力が実を結んだ証だ」と激励した。

今回のイベントでは、一橋大学名誉教授でペガサス・テック・ベンチャーズのアドバイザー米倉誠一郎氏の進行で、審査委員長の平野洋一郎氏(アステリア代表取締役社長)ら10名の審査員のパネルディスカッションなども行われ、「日本からのユニコーン誕生の可能性」や「日本のスタートアップの多様性」について議論が交わされた。

透析をする友人の「もう一度ラーメンを食べたい」の一言が開発のきっかけに



優勝したトイメディカルは2013年10月に創業。「おもちゃ(トイ)のように、使う人皆を笑顔にするような製品を創り続けていきたい」(同社HP)という思いが社名の由来だ。そして、独自技術の開発のきっかけとなったのは、腎臓病を患い透析を余儀なくされた友人の「ラーメンをもう一度食べたい」との一言だったという。
塩分の過剰摂取は世界的な課題でもある。「今は日本での展開を進めているところだが、減塩食品は世界的な市場の広がりを期待できる。今後はヨーロッパやアメリカでの市場拡大を目指す」と竹下代表。「食は人間の原点。食を楽しんで欲しいという想いで今の事業を続けている。罪悪感なく、人々を笑顔にできるこの技術を世界に広げていきたい」と、世界大会での発表に意欲を見せた。



優勝賞金100万ドル獲得を目指し世界大会へ

九州代表として選ばれたトイメディカルは、7月18日に開催される東京予選と8月22日に開催される東北予選の優勝企業と共に、10月にシリコンバレーで開催される世界決勝戦に挑む。世界大会の優勝賞金は100万ドル(約1億5000万円)だ。
今回のイベントで審査委員長を務めた平野洋一郎氏は、「熊本での開催は2回目。確実に前回よりレベルが上がっていると感じる。点数は僅差の争いとなったが、“世界に役立つものかどうか”が最終的な世界大会代表選出のポイントとなった」と公表を述べた。


会場には高校生など、若い人材の姿も多く見られた。大西市長は最後のあいさつで「今日のピッチを見て、自分も挑戦してみたいと思った高校生もいるのではないかと思う。きっかけは様々だと思うが、いろんなことに挑戦していくことで世の中が変えられる。今後もスタートアップのイベントを通して世の中を明るく、楽しいものにしていきたい」と述べた。
記事:大平誉子
編集:北松克朗
トップページ写真:スタートアップワールドカップ事務局提供
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