トウキョウスナップショット Vol.3 - 触れられる文化と食べられる演出

東京グルメフェスティバルで体験する、五感を刺激する料理と文化の融合

5月 30, 2025
by Yang Liu
トウキョウスナップショット Vol.3  - 触れられる文化と食べられる演出
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(シリーズ)JStoriesでは、東京(東京圏)の今の姿を、多様なフォトグラファーの目で活写したフォトストーリーをシリーズでお届けします。日本に以前からあるものや、2025年の今にしか存在しないものまで、どこか日本らしいユニークさや、イノベーティブなアイデアが感じられるものを、様々なバックグラウンドを持つJStoriesスタッフが街中を歩きながら見つけて撮影しました。こうした日常の姿の中にこそ、世界の問題解決につながる日本発のイノベーションのアイデアが生まれているのかもしれません。
劉洋 (Liu Yang): 上海外国語大学から東京に交換留学中、心理学とコミュニケーションを学んでいる。オックスフォード大学で経済学も学んだ。スピーチや司会、メディア経験があり、ラテンダンス、映画、香水、新しい文化探求に情熱を注ぐ
劉洋 (Liu Yang): 上海外国語大学から東京に交換留学中、心理学とコミュニケーションを学んでいる。オックスフォード大学で経済学も学んだ。スピーチや司会、メディア経験があり、ラテンダンス、映画、香水、新しい文化探求に情熱を注ぐ
JStories ー 5月中旬のある午後、私は「第4回Tokyo Tokyo Delicious Museum」の会場を訪れた。このイベントは2025年5月16日から18日までの3日間、東京・有明で開催された。
会場に足を踏み入れた瞬間、ふわりと漂う香りと軽やかな音楽、彩り豊かな料理が視界いっぱいに広がり、五感が一気に開かれていくのを感じた。そこには、伝統と革新、和と洋、そして多様な文化が静かに、しかし確かに交差していた。単なるグルメイベントではなく、東京という都市の懐の深さと、文化を包み込む優しさを映し出す舞台 — そんな印象が、冒頭から強く残った。​​
Tokyo Tokyo Delicious Museumで活気あふれる美食祭を満喫する       写真提供:Tokyo Tokyo Delicious Museum (以下同様)
Tokyo Tokyo Delicious Museumで活気あふれる美食祭を満喫する       写真提供:Tokyo Tokyo Delicious Museum (以下同様)
3日間にわたるイベントでは、会場が「江戸風情ゾーン」「フードジャーニーゾーン」「東京デリシャスゾーン」の3つのテーマエリアに分けられていた。「江戸ゾーン」では、寿司、鰻、天ぷら、蕎麦など、江戸の味を受け継ぐ伝統料理が提供され、「フードジャーニーゾーン」では、愛知県の合鴨料理や沖縄風タコスなど、日本各地の特色ある料理が並んだ。「東京デリシャスゾーン」には、トリュフを添えた和牛丼、パレスチナ出身のシェフによるアラブ料理、落合務シェフのイタリアン、四川飯店が手がける本格中華、ジビエ料理、さらにヴィーガンやグルテンフリーなど、現代の食のニーズに応える多様なメニューが集結した。
今回のイベントでは、多彩な日本料理がたくさん出ている
今回のイベントでは、多彩な日本料理がたくさん出ている
東京都知事・小池百合子氏は開会の挨拶で次のように述べた。「東京が世界に誇る多彩な食の魅力を堪能できるフェスティバル Tokyo Tokyo Delicious Museum がいよいよ始まります。今年も寿司など、江戸から続く伝統料理はもちろん、日本各地、世界各国の料理、精進料理やグルテンフリーなど様々な料理を満喫いただけます。豊かで洗練された食文化を未来へ引き継いでいくためにも、世界一美味しい“東京”を国内外に広く発信して参りましょう。」
松本明子さんと4人の料理人の集合写真で、小池知事の代わりに開会の挨拶をした        写真撮影:劉洋 | JStories
松本明子さんと4人の料理人の集合写真で、小池知事の代わりに開会の挨拶をした        写真撮影:劉洋 | JStories
会場中央のステージエリアには、さまざまな文化背景をもつ来場者が次々と集まり始めていた。カリフォルニアから訪れたある観光客は、当初は日本の伝統料理を中心としたイベントだと予想していたが、実際の多国籍な料理の数々に驚かされたと話した。「まるでミニチュアの世界舞台にいるみたい。東京にいながら地球を一周した気分になりました」と語った。
世界各地の料理の饗宴  写真提供:Tokyo Tokyo Delicious Museum
世界各地の料理の饗宴  写真提供:Tokyo Tokyo Delicious Museum
その言葉に深く共感した。実際に料理を味わいながら、私は改めて、一皿一皿がその国の文化と歴史を映し出していることを感じた。それはまるで小さな物語をひとつずつ辿るような体験だった。味や香りは、国境だけでなく時間さえも越えて、人の記憶にやさしく残る力を持っている ー そんな実感が、心に強く残った。
とりわけ印象的だったのは、料理の分量が控えめでありながらも、どれもが非常に精緻で、美しく、清潔感にあふれていたことだ。世界各国の料理であっても、そこには“東京らしさ”とも言える上品さと整然とした空気が漂っていた。
多様な文化がぶつかり合うのではなく、繊細なバランスの中で共存し、それぞれの個性が丁寧に際立たせられている――このような「調和された多様性」こそ、他の国際都市にはない、東京ならではの魅力なのではないかと感じた。
また、提供された日本料理の中には、伝統的な作り方から、海外の料理などから影響を受けたユニークでイノベーティブな料理があったことも印象深い。例えば、「海鮮ばらあげ天丼」と呼ばれる料理を味わう機会があり、その斬新な発想が印象に残った。一般的な天丼は、エビやナス、カボチャなどの天ぷらを丸ごと盛り付けるのが定番だが、本品は「ばらあげ」という手法を用い、さまざまな海鮮を小さく切り、混ぜて揚げることで、砕けた食感の海鮮フライに仕上げていた。ご飯との一体感が高まり、中国の「拌飯」を思わせるような親しみやすさがあった。
また、熱々の揚げ物の上に鮭いくらを大胆にあしらっていた点も興味深い。いくらは寿司や海鮮丼などの冷製料理に使われるイメージが強く、揚げ物との組み合わせには違和感を覚えたが、本料理はその既成概念を覆す構成となっていた。揚げ物の熱とサクサク感、いくらの冷たさと弾けるような食感が対照的に口の中で交差しながらも、意外なほど調和していた。この「食感と温度のズレ」が新鮮な味覚体験を生み出し、料理における常識や組み合わせの境界について考えさせられる一皿となった。
JStoriesが海鮮ばらあげ天丼を味わう  写真撮影:劉洋 | JStories (以下同様)
JStoriesが海鮮ばらあげ天丼を味わう  写真撮影:劉洋 | JStories (以下同様)
料理の驚きだけでなく、音楽パフォーマンスも観客の記憶に残るポイントの一つとなった。和太鼓とジャズが交互にステージを彩り、音と香りが溶け合いながら、独自のリズムを生み出していた。現実と抽象が入り混じったような“味覚の劇場”とも呼べる空間が、会場内でも特に五感に強く訴えかける一角となっていた。
Liquid Stellaのジャズに始まり、飯野和英によるクラシック、さらにポップスや武術演武まで、ステージは絶えず表情を変え、観る者を飽きさせない。まるで中国の「春晩」のように、味覚とともに視覚・聴覚までも満たされる華やかな時間が流れていた。料理を味わいながら、まさに五感すべてが“世界を旅する”ような体験となった。そして、こうした多様な文化が違和感なく調和し、洗練された形で共存する様子に、東京という都市の懐の深さと国際性を改めて感じさせられた。
食事を楽しみながら音楽パフォーマンス鑑賞
食事を楽しみながら音楽パフォーマンス鑑賞
主会場の外れには、落ち着いた雰囲気の工芸品ブースも設けられていた。漆器のアクセサリーを扱うある出展者は、和菓子や桜をモチーフにした小さなチャームを展示。上生菓子や季節の花を基にしたその繊細な造形は、日本の歳時記や手仕事の美を感じさせ、多くの来場者が足を止めて見入っていた。
また、石川県から出展した箸専門店は、「応援消費」をキーワードに、地域の伝統工芸の魅力を発信しつつ、能登半島地震からの復興支援にも取り組んでいた。出展者は「日常使いの道具を通して、その背後にある文化や温もりを伝えたい」と語った。
東京ならではの個性的な工芸品を手に入れる
東京ならではの個性的な工芸品を手に入れる
イベント自体の構成はシンプルで、3つのテーマゾーン、整然と並んだブース、途切れることのない来場者の流れが印象的だった。しかし、来場者の心に残るのは、料理の数や珍しさではなく、細部に宿る物語である。手に取った一本の箸、耳に残る太鼓のリズム、そして目の前で繰り広げられる多彩な料理。それらが一体となって、「感じられ、記憶され、持ち帰ることができる東京の風景」を形作っていた。
この街において、食とは単なる味覚の体験にとどまらない。それは文化をつなぐ手段であり、東京はその物語を、静かに、しかし確かに書き続けている。
寿司作りの手作り体験を満喫    写真提供:Tokyo Tokyo Delicious Museum
寿司作りの手作り体験を満喫    写真提供:Tokyo Tokyo Delicious Museum
記事:劉洋 (Liu Yang)
編集:一色崇典 
トップ写真:Tokyo Tokyo Delicious Museum 提供 
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