成長を続けるフィリピンのスタートアップシーン(後半)

EV物流のMober、オンライン薬局のMediclick、竹製品のBambuhay—環境と社会に貢献する企業が急成長

2月 1, 2025
by DESIDERIO LUNA
成長を続けるフィリピンのスタートアップシーン(後半)
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JSTORIES ー フィリピンのスタートアップエコシステムは、着実に成長を遂げている。スタートアップ・エコシステムのリサーチ機関Startup Genome(スタートアップゲノム)によると、2023年にフィリピンは、スタートアップ・エコシステム・ランキングで、91-100位から81-90位にランクアップした。フィリピンの貿易産業省によれば、同国のエコシステム価値は2019年7月から2021年12月までの間に72%の年平均成長率を記録し、その後も成長を続け、2023年末までに64億ドルに達している。
以下に、フィリピン、マニラ市出身のJSTORIESライターDesiderio Lunaがピックアップした農業、持続可能な製品、医療、排出ゼロ輸送の各分野において、持続可能な解決策を提供している4つの成功したスタートアップを紹介する。
(後半パートでは三社を紹介。前半はこちらをご参照ください

Bambuhay:竹を活用して地球を救い、人々の生活を改善する

ゴミの蓄積と非効率的な廃棄物の管理は、フィリピンにおける深刻な問題である。フィリピン開発問題研究所(PIDS)が2024年に発表した研究によれば、国内のインフラは十分に整備されておらず、資源の活用も非効率的であるという。具体的には、1,634の都市および自治体に対し、わずか237の衛生埋立地しか存在せず、42,000以上のバランガイ(フィリピンにおける最小の行政単位。日本でいう町内会に似た役割を持ちながら、行政機関としての正式な機能も果たしている)に設置された資源回収施設も4分の1程度となる11,625箇所にとどまっている。このように廃棄物処理能力が限られている現状では、将来のゴミの蓄積を防ぐことが急務である。
この問題を解決する方法の一つが、環境に優しく、繰り返し使える持続可能な製品の使用だ。この考え方に基づいて設立されたスタートアップBambuhayは、プラスチック製品の代替として、フィリピン国内で簡単に育てることができる竹を使った製品を提供している。竹は成長が早く、伐採後も根が残るため植え替えの必要がなく再生可能である。また、使用後に自然環境で分解されるスピードも速く、環境への負荷を軽減できる。
Bambuhayは、歯ブラシやストローといった竹製品を販売しており、その製造によって農家の生計を支えている。   (提供: Bambuhay website)
Bambuhayは、歯ブラシやストローといった竹製品を販売しており、その製造によって農家の生計を支えている。   (提供: Bambuhay website)
Bambuhayは、英語の「bamboo(竹)」と、フィリピンの言葉で命を意味する「buhay」、持続可能性を表す「habambuhay」という言葉を組み合わせた名称である。同社は、そのソーシャル・エンタープライズ(社会的企業、社会的課題を解決しながら事業を運営する企業)としてのビジョンが評価され、2024年にエアアジア財団から助成金を受けたマーク・スルタン・ゲバラさんによって設立された。
このスタートアップは、竹とテクノロジーを活用して、プラスチック汚染、森林破壊、気候変動、貧困の問題に取り組んでいる。しかし、同社の主な目的は、社会的に疎外された農家に持続可能な生計手段を提供し、その生活を改善することにある。製品には、竹製の歯ブラシ、ストロー、マグカップ、タンブラーなどが含まれている。詳細は公式ウェブサイトで確認できる。

Mediclick:わずかなクリックで必要な薬を届ける

医療相談や薬など、手頃な価格で利用できる医療サービスへのアクセスは、フィリピンが抱える大きな課題である。PIDSの報告によると、フィリピンは「健康に関する重要な指標」や「医療サービスへのアクセス」といった指標で、他のASEAN諸国に比べて遅れを取っている。この健康格差の原因としては、貧困や高額な医療費に加え、資金不足により十分な医療サービスを受けられないことや、医療情報システムの整備が進んでいない点が挙げられる。これらの問題が状況をさらに悪化させている。
Mediclickのホームページバナー。このウェブサイトで薬を購入したり、薬剤師によるオンライン相談も受けることができる。   (提供: Mediclick website)
Mediclickのホームページバナー。このウェブサイトで薬を購入したり、薬剤師によるオンライン相談も受けることができる。   (提供: Mediclick website)
フィリピン国内で、特に貧困層や医療サービスが不足している地域における医薬品へのアクセスを改善するため、デジタル医療分野のスタートアップであるMediclickは、オンラインの薬局サービスを立ち上げた。同社はウェブサイトを通じて医薬品の販売と患者宅への配達サービスを提供している。また、薬剤師による無料のオンライン相談も行っている。Mediclickは2020年に設立され、2023年にはプレシード(初期段階)資金として30万ドルを調達するなど、急速に成長している。

Mober:電気自動車を活用したグリーン物流の推進

フィリピンの輸送セクターは国内最大の温室効果ガス排出源であり、2020年から2022年にかけて3,542万トンの二酸化炭素(CO2)を排出した。発展途上国であるフィリピンは、移動手段として化石燃料を動力とする車両に大きく依存しており、電気自動車の導入など、よりクリーンで持続可能な輸送手段が採用されない限り、排出量は今後も増加する見込みである。
この課題に挑むのが、フィリピンの物流スタートアップ・Mober Technologyだ。2016年にデニス・ンさんが設立した同社は、電気自動車を使った当日配送サービスを提供している。環境への負荷を抑えつつ業務の効率を最大化するため、Mober Technologyでは先進的な注文追跡システムやAPI連携(異なるシステム同士をつなげてスムーズにデータをやり取りする仕組み)、店舗内に設置されたキオスク端末(セルフサービス端末のこと)を導入している。
マニラ首都圏の高速道路を走行するMober Technologyの電動配送トラック。同社は2025年までに全車両を電動化することを目指している。   (提供: Mober Technology)
マニラ首都圏の高速道路を走行するMober Technologyの電動配送トラック。同社は2025年までに全車両を電動化することを目指している。   (提供: Mober Technology)
同社は、フィリピンで全車両を電動化する最初の物流サービスプロバイダーとなることを目指しており、2025年までに300台の電気自動車を導入する計画である。2024年には、このビジョンを実現するために600万ドルの資金を調達している。この取り組みは、地球の未来を守り、カーボンフットプリントを補償し(自分たちの活動で排出した二酸化炭素を他の方法で相殺する)、完全に効率的で廃棄物を生み出さない循環型サプライチェーンを構築する(製品の生産から消費、廃棄に至るまで、資源を無駄なく再利用する仕組みを作る)という同社のビジョンを反映している。
翻訳:藤川華子
編集:一色崇典
トップ写真:JSTORIES (Desi Luna)
この記事に関するお問い合わせは、 jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。

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